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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)1373号 判決

上告人

本間英孝

外六名

右七名訴訟代理人

松本昌道

外三名

更生会社日本開発株式会社管財人

被上告人

仁分百合人

右訴訟代理人

西迪雄

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人松本昌道、同正田茂雄、同川名照美、同岡田弘隆の上告理由について

建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上他の部分と区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもつて足り、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しないものと解するのが相当である。そして、このような構造を有し、かつ、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分は、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて、独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、(1) 本件車庫は、本件建物の一階正面ロビーから向つて左側の一階部分に位置し、向つて左側の壁は本件建物の外壁となつているが、向つて右側の壁は、車庫の入口の柱の部分から約三分の一が本件建物の外壁であつて、残余の部分が前記ロビーと境を接する外壁となつている、(2) 本件車庫の奥は、本件倉庫との間の道路部分及び電気室と接しているが、その部分はブロックの壁で遮られ、右通路及び電気室に通ずる幅、高さそれぞれ約二メートルの二か所の入口があるが、その入口にはそれぞれ引戸式の鉄製扉がとりつけられている、(3) 本件車庫の入口には、両側の壁に接してそれぞれ本件建物を支える七階まで通しの鉄筋コンクリート製の幅約七〇センチメートルの角柱があり、その柱と柱との間には等間隔をおいて右と同様の柱が二本立つており、右各柱には、車両の出入を遮断するため、腕木式に九〇度上下できるように一端を柱に取りつけた長さ約2.4メートルの鉄パイプが設置されている、(4) 本件車庫は、車庫として利用され、右利用にあたつては、本件車庫から本件建物の外部に直接出ることが可能である、(5) 本件車庫の壁の内側付近二か所に臭気抜きの排気管が取りつけられており、また、出入口付近の床の三か所に排水用のマンホールが設置されており、右排気管及びマンホールは、いずれも本件建物の共用設備であるが、本件車庫のうちのきわめて僅かな部分を占めるにすぎず、かつ、これらが本件車庫内に存在するために本件建物の管理人が日常本件車庫に出入りする必要が生ずるわけでもない、というのである。右事実関係のもとにおいては、本件車庫が、建物の区分所有等に関する法律にいう一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる建物部分であり、建物の専有部分として区分所有権の目的となるものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人松本昌道、同正田茂雄、同川名照美、同岡田弘隆の上告理由

原判決は、本件建物の車庫部分につき、建物の区分所有に関する法律(以下建物区分所有法という)第一条を適用して区分所有の目的とすることができる建物の部分であることを肯定し、上告人らの所有権保存登記抹消請求を棄却した。

しかしながら、原判決は、建物区分所有法第一条、三条の解釈適用を誤り、その結果、本件車庫につき共用部分であることを否定して専有部分であることを肯定したものであるから、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。その詳細は以下のとおりである。

第一、原判決の要旨

原判決は、区分所有権法第一条の適用につき、三つの観点から論じている。本件車庫は構造上区分された建物であること、独立して建物としての用途に供することができるものであること、その他諸般の事情も同条の適用を否定しないこと、の三つである。

一、本件車庫が構造上区分された建物の部分であることにつき、

(1) 車庫の周囲三面がブロック壁で仕切られていて、本件建物の他の部分と明確に区分されている。車庫の出入口には仕切りがないが、四本柱と天井のひさし部分によつて、敷地部分との境界は明確に区分されている。

(2) 車庫出入口に仕切りがないが、車両の出入が頻繁に行われる車庫の性質上仕切りがなくとも止むを得ない。

二、本件車庫が独立して建物としての用途に供することができるものであることにつき、

(1) 車庫から直接本件建物の外部に出ることが可能であり、現に車庫として利用されている。

(2) 車庫内には本件建物の共同設備である臭気抜きの排気管が壁の内側二ケ所にあり、出入口付近の床には同じく共同設備である排水のためのマンホールが三ケ所あるが、これら共同設備があつても、建物区分所有法第一条の適用は否定されない。すなわち、

1、右共同設備は車庫のうちきわめてわずかな部分を占めるにすぎない。

2、右共同設備が存在するからといつて、本件建物の管理人が日常車庫に出入りする必要が生ずるわけではない。

三、その他諸般の事情をみても同条の適用が否定されるものではないことにつき、

(1) 建築概要には共同施設として駐車場を掲げているが、その趣旨は区分所有者である分譲会社から賃貸を受けた数人が共同して利用しうる施設と解することができるから、専有部分であることを否定するものではない。

(2) 分譲会社は車庫の区分所有者として支払義務のある管理費を支払つたことが一度もないが、そのことをもつて分譲会社が車庫を共用部分であると認めていたとの認定をただちにするわけにはいかない。

第二、上告理由

一、原判決は本件車庫の出入口に何らの遮蔽物がないのに、区分所有の目的となると、している。しかしながら、区分所有法一条のいう「建物の部分」は、それが建物の「部分」であつても、一棟の建物が有する物理的条件、経済的効用を保持している必要がなければならない。そうしたうえで本件車庫が一棟建の「建物」としての条件を備えているか否かを検討すべきであるところ、住居店舗、事務所、倉庫、車庫としての一戸建建物は、周囲は壁によつて囲まれているのが通常であり、三方だけに壁があり残る一方には全く壁が存在しない建物は異例である。又たとえ、それが車庫であるにせよ、建物としての右外観を備えていなければ所有権が成立する不動産とすべきではない。なるほど、一戸建の車庫と呼ばれるもので、出入口部分の壁が全く存在しないものも見かけはするが、それらは所有権が成立する不動産であるとは限らない。所有権の内容である排他的支配を可能ならしめる物理的条件として、周囲四方に壁が存在することが要件である。原判決は、車が頻繁に出入りするから周囲の一方に壁が存在しなくてよいとするが、車の頻繁な出入りの有無は、所有の対象となる不動産か否かとは、直接何の関係もないことである。

原判決は、区分所有法一条の「構造上区分された部分」か否かの検討に追われるあまり、一棟の建物が有している以上述べた物理的要件を軽視したといわれるべきである。

二、区分所有法三条一項は「構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならない」と規定している。同法一条が区分所有の積極的規定とすれば本条は区分所有の消極的規定である。

したがつて、区分所有成立の有無は、同法一条の適用のみならず同法三条一項に該当しないことをも判断しなければならないはずである。

右見地にたつてみると本件車庫は、「構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分」であるから、区分所有権の目的とならないものである。すなわち、

(1) 本件車庫には、壁の内側二ケ所に臭気抜きの排気管があり出入口三ケ所に排水用マンホールが存在している。これらがいずれも本件マンション全体の共同設備であることは、原判決も認めるとおりである。これを区分所有法に照らせば、右設備は二条四項の定める「専有部分に属しない建物の附属物」といえる。本件車庫という空間は、特定の者が車庫として使用できる空間と、本件マンション全体の利用、管理に必要不可欠な共用設備が設置される空間とが併存、すなわち、専用的空間と共用的空間とが併存しているわけである。

そして、右二つの空間を区分する遮蔽設備が全く存在していないことは明らかである。このように本件車庫においては、車庫のための空間は、右共同設備のための空間から構造上区分されていないのであるから、構造上の区分の有無という点からみれば本件車庫としての空間は区分所有法一条に該当しないと判断できるのであり、また同法三条の共用に供されるべき部分か否かの観点からみれば、本件車庫は右共同設備が存在しているがゆえに、本件車庫は共用設備と一体をなす建物部分ということになり、区分所有者の共用に供されるべき建物の部分であると、言わざるを得ないのである。

原判決は、右共用設備が車庫のうちのきわめてわずかな部分を占めるにすぎないことを理由にして、本件車庫が法三条一項の共用部分であることを否定している。しかし、共用設備が占める空間の広さの割合がどんなに僅少なものであつたとしてもそれが共同設備であることを変えるものでないこと明らかである。右共用設備がなければ本件マンション全体の利用が損われることに何の変わりはないからである。

(2) 本件車庫が、前記共用設備と構造上区分されていたとしたとき(本件では区分されていないこと前述のとおり)、車庫は専有部分といえるか。この場合も以下のとおり、車庫である以上「区分所有者の共用に供されるべき建物の部分」である。

1、本件マンションは、七階建の鉄筋コンクリート造りで、専有部分六五戸を有する、大きい方の部類に属するマンションである。

そして、駐車設備として、別紙図面のとおり本件車庫に六台、道路に水平にしてコンクリート床に作られたビニールトタン屋根つきの駐車設備に八台、その下に五台、道路から敷地への出入りのためにあるスロープの下を利用して四台、B棟正面にビニールトタン屋根つきものに五台、あとは屋外に七台、合計三六台収容可能な駐車設備を有している。駐車設備料は三段階に分かれ、月額、コンクリート屋根のものが一万円、ビニールトタン屋根のものが八千円、露天のものが四千円となつており、本件車庫は格別の取扱いを受けているわけではない。

2、住居と駐車設備との関係をみると、一戸の住宅を単位にする限り、住居と台所、便所、風呂場などとの関係ほど緊密なものではない。台所、便所、風呂場などであれば、住居であるかぎり一戸毎に備わつているのが通常だと言つてよいだろう。駐車設備となると、一戸の住居毎に通常備わつているものとはいえないにしても、幾つかの戸をひとつの単位にしてみるならば、つまり数戸を集めれば、そのなかには必ず駐車設備が一つはあると言えるのが通常である。

本件のような一棟作りの集合住宅においては、住居が数戸集っているのであるから、複数台収容可能な駐車設備が存在することが通常となるのである。但し、駐車場の収容台数がその住居数の何分の一かであることは言うまでもない。マンション(集合住宅)には駐車設備が必須の設備である。駐車設備のないマンションは、あたかも台所、便所の設備がない住居と全く同視できる。

3、最近の自家用乗用車の保有状況は、つぎのとおりである。運輸省自動車局整備部管理課作成の「自動車保有車両数」によると、昭和五三年六月末現在において、自家用乗用車保有数(軽四輪を含む)は、二〇〇七万八、八九一台である。昭和五〇年一〇月現在の世帯数は三、五五六万世帯である(総理府統計局「国勢調査報告」)から、1.7世帯に一台の割合で自家用乗用車が保有されていることになる。ちなみに人口比をみると、昭和五二年現在の人口は一億一、四〇〇万人である(総理府統計局「人口推計月報」)から、5.6人に一台の割合で保有されていることになる。

自動車運転免許取得者数をみると、警察庁交通局発行の「交通統計」(昭和五二年度版)によると、昭和五二年には三七〇二万二、九二二人となつており、昭和五三年八月末現在は三、八四六万三、二六〇人となつている。これを前記の人口比でみると、三人に一人の割合で自動車運転免許を所持していることになる。そして右統計によると、ここ五年間、毎年一五〇万人前後が運転免許を新たに取得しているのである。

以上よりみて、自家用乗用車は、一家に一台を保有する時代がそう遠くはないという程度に広範な普及を示している。

4、自動車の保管場所の確保に関する法律によれば、自動車登録(道路運送車両法四、一二、一三条)をするには、「車庫空地その他自動車を通常保管するための場所」すなわち駐車設備がなければならないのである。前記3で述べた自動車保有数が二、〇〇七万八、八九一台であるから、ひとつの駐車設備に一台とすればこの台数と同数の駐車設備が存在しているということになる。つまり、1.7世帯に一つの割合、つまり五世帯集めれば必ず三台分の駐車設備があるということなのである。

そこで、本件マンションをみると、専有部分が六五戸であるから居住世帯は六五世帯であり、駐車設備には前述1、で述べたとおり三六台収容しているのであるから1.8世帯に一台の割合ということになり、全国平均とほぼ同じである。

5、右のとおり、五世帯集合すれば自動車三台分の駐車設備が備つていることが通常のことであるとするならば、数十世帯も入居するマンションであれば、その形態は別としてもとにかく複数台収容可能な駐車設備が必ず設けられるということになるのは当然である。六五世帯が入居可能な本件マンションにおいても三六台収容可能な駐車設備が存在していることは、自動車の広範な普及状況を反映したものなのである。

一戸を単位にするかぎり駐車設備は常備のものとはいいがたいが、数戸を単位にするならばその数戸が入居する一棟の集合住宅においては駐車設備というものは、常備のものなのである。

したがつて、このような駐車設備は、性質上その集合住宅の区分所有者の共用に当然供されるもの、と法律的にも権利関係を確定すべきものなのである。

6、本件車庫は、建物の部分が駐車設備とされているところから、それが専有部分か共用部分かが争いとなつているわけであるが、本件マンションに備わつている他の駐車設備である別紙図面中7ないし36番の駐車場と何ら性質を異にするものではないし、現に異つた取扱いは為されていない。別紙図面中の7ないし15番の駐車場が、スロープなどを屋根がわりにしているのと全く同じに、本件車庫は、たまたま建物の二階床部分を屋根がわりにしているというにすぎないのである。

店舗、事務所用の分譲ビルにおいては、ビルの脇はパーキングタワーが設置されていて、パーキングタワーの区分所有権が分譲会社に留保されている例は多い。しかし右のようなパーキングタワーは、当該ビルの区分所有のために設備されているのではなく、外部の者が店舗なり事務所なりに所用で来たときのために、もつぱら営利的に設けられたものである。

ところが、本件車庫を含む駐車設備は、当初から区分所有者の保有する自家用乗用車の駐車のために設けられたもので、それ以外外部者に対して有料で貸すことによる利益を目的とされたものではないし、現にそのようには供されていないのである。

以上の諸点よりみて、本件車庫は区分所有法三条一項にいう「構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分」に該当するものである。

三、なお、原判決は乙二号証の建築概要に、共同施設として駐車場を掲げていることにつき、右記載があつたからといつて本件車庫が専有部分であることは否定できないと判示しているが、その理由付にはやはり無理がある。右記載は前記二、(2)で述べたことに照すれば、文字どおり区分所有者のための共同設備であるとしか読めないものである。

(添付書類―写真等―省略)

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